Wednesday, November 2, 2016

2016年の正倉院展から

2016年正倉院展

漆胡瓶
今年も正倉院展の季節、毎年通っているが、年々観客が増えているように感じる、それも圧倒的に高齢者が多い。いつも混んでいるので、空いている時間帯を探してみた、口コミではランチタイムが一番だと言っていたので、12:00少し過ぎに行くが、入り口では既に45分の待ち行列。中の混雑を避けるため入場制限をかけているので、展示場はそんなでもない。
漆胡瓶の表面
銀板細工
今年の目玉は「漆胡瓶(しっこへい)」鳥の頭のような注ぎ口に、ふっくらとした胴体でペルシャで流行った造形。器の模様は黒漆を塗った上に、銀の板で鹿や草花を彫ってある。中国・唐で造られたもので、シルクロードの両端の文化が融合して見事な出来栄えだ。高さ41cm程でとても軽いので、従来竹籠のように木製の薄い板を編んで作ったのだろうと思われてきたが、X線で構造を確認したところ、テープ状に薄く長く切った板を巻き上げて成形されていることが分かった。非常に珍しい「巻胎技法」である。この成形された木の上に黒漆をかけ、表面に草木、獣などを彫刻した銀板を貼り付ける。その上にさらに漆をかけ、乾燥したところで銀板の漆を研ぎ出す。非常に手間をかけた仕事であるが、見ただけでは分からない。
撥鏤飛鳥形

「撥鏤飛鳥形(ばちるのひちょうがた)」もじっくり見ないとその凄さが分からない。
長さわずか3cm程の飛んでいる鳥の造形だ。材料は象牙で、表面を染めたあと、羽根や身体の文様を白く彫りだす撥鏤の手法で作られている。象牙は染めやすいが、中まで染料が浸透しない特質を利用して、表面を削ることで染まらない象牙の白色を浮き出させるのだ。鳥の眼や脚に穴が空いていて紐を通したようだが、用途は不明、なにかの飾りだったと思われる。こんなに小さな造形なのに隅々の細かなところまで丁寧に細工されている。まさに美は細部に宿るを実感させる美術品だ。

アンチモン・インゴット
正倉院御物展に素材そのものが公開されるのは珍しい。それがアンチモン塊(インゴット)だ。アンチモンは金属の一種(記号Sb)で、銀白色の光沢があり、もろく、毒性がある。15世紀頃、西洋で元素として知られるようになり、金属活字などの合金に主に用いられる。現在は半導体など電子材料の用途として重要になってきた。今回展示されているアンチモン・インゴットは白銅塊(はくどうかい)と呼ばれてきたが、近年の調査によりアンチモンと判明。なぜアンチモンなのか、日本最古の貨幣である富本銭は銅と錫の合金が使われる。しかし、錫は日本では産出せず、高価なため、日本で産出するアンチモンを錫の代わりに使ってみたら見事に鋳造することができた。アンチモンは錫に比べて鋳造時に有毒ガスがでるため後には、貨幣の鋳造には用いられなくなった。
東大寺の祭礼で
飾られた旙

私にとって一番面白いと思ったのは、展示されていた古文書の中の、「写経司解司内穏便事(しゃきょうしのげしないおんびんのこと) 」 (写経所の上申書)である。
光明皇后の病気平癒を祈って、大勢の写経生や装丁職人などを雇用し大規模な写経プロジェクトが組織された。聖武天皇直轄なので人、もの、金などふんだんに投入されたと思われる。そのため官位など度外視して、頭のいい、字の上手な若者が平城京へ集められた。しかしその労働は過酷で、写経所に泊まりこみ早朝から長時間労働で月20日以上勤務。自宅へ帰るのは2ヶ月に3~4日だった。
この写経所の管理者が上司に申請した書類(上申書)である。
細工の美しい経台
写経プロジェクト要員の待遇改善を具体的に箇条書きにしたもので、1.紙が少なく書き手が多いので、紙が供給されるまで経師(きょうし)(書写係)の招集を停止すること。2,装潢(そうこう)(装丁係)と校生(こうせい)(校正係)の食事は写経生に比べて粗末なので写経生並に改善すること。3.休日を5日毎に必ず与えること。4.仕事がきつくて肩や腰が痛くなるため、3日に一度は薬として酒を提供すること。など全6箇条の要求が記されている。写経生の労働環境とそれに対する不満が垣間見える興味深い文書だ。

正倉院にはシルクロードを通じて
多彩な文化が入ってきた



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